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なぜ着物を着るのか 〜磨かれる四季への感応力〜
”着物はその魅力を感じた人にだけ働く、2つの不思議な力をもっています”
1つは着物そのものの世界に引き込んで、内面を豊 かにしてくれる力
着物を着るたびに、もっと着物のことを知りたいという思いが増し、紬や絣などの織物の種類や産地、染色法や織り方について調べたり、好 きな着物作家の作風の変遷を追ったり、着物や帯の文様や流行の歴史を紐解いたりと、いつの間にか美術や歴史への造詣が深くなっている人は多いはずです。
また、着物を着たときの所作に気をつけているうちに、自分の普段の立ち居振る舞いやマナーを省みて、何気ない仕草の一つひとつが美しくなっていく人もいます。人によって変化の度合いは異なりますが、たとえわずかでも、着物から得た知識や精神が普段の日々に染み渡り、内面の変化を促すのは間違いありません。
着物が持つもう1つの不思議な力は、着物をきっかけにその周りに広がる新しい世界へと押し出してくれる力
着物を着てどこかへ出かけたいと思って何気なく、落語に出かけ、すっかりはまって高座に通い詰める人。本物の能衣裳を見たいと能楽堂に行き、幽玄な世界に魅せられて仕舞の稽古を始めた人。着物を着たときの所作が美しくなるようにと始めた茶道で、気づいたら師範になっていた人。着物という最初の扉を開かなければ、それぞれの新しい扉は探し出せなかったかもしれないですし、自ら開くこともなかったでしょう。
着物そのものの世界に引き込む力。着物から広がる新しい世界に押し出す力。着物愛好家たちが着物を着ることをやめないのは、この2つの力によって、内に外に自分が豊かになっていくことを日々実感しているからかもしれません。